転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


2.1度でダメなら2度3度



 失敗失敗。
 よく考えてみれば僕はまだ4歳なのだから、口があまり良く回らない。
 だからこんな長い呪文を正確に発音できるはずがなかったんだ。

 魔法が発動しなかったのは別に僕が魔法を使えないからじゃなくて呪文をうまく唱えられなかったからだと仮定すると、もっと簡単な呪文ならうまく発動するはずだ。

 となると、魔法使い系じゃなく神官系の魔法だけど1レベルでも使える治癒魔法、キュアがいいんじゃないかな? 僕がまだうまく発音できないサ行も入っていないし。
 魔法使い系では同じくサ行が入っていないライトがあるけど、外は明るいから成功したとはっきり確認できるほどの明るさがあるかどうか解らないし、それに対してキュアなら2〜3日前にすりむいた膝がカサブタになっているから、これに向かってかけて見れば結果も一目瞭然だからね。

 と言う訳で、改めて魔力を体に循環させる。
 そして手の平を傷に向けて。

「きゅや!」

 ふぅ。
 いけない、いけない、つい力が入りすぎてしまった。
 とにかく同じ失敗を繰り返さない為にも、魔力を循環させる前にまずは数回呪文の練習をしよう。

「きゅや! きゅや! きゅぅ〜あ、あっ、いまのはちゃんといえた! そうか、ゆっくりいえばいいのか」

 それから数度ゆっくりとキュアと発音し、今度こそとMPを循環させる。
 そして、

「きゅあ」

 力ある言葉を口にすると、体に循環していたMPが光となって傷口に集まる。
 そしてその光が消えた後、カサブタがぽろっと取れて下から傷口が完全に塞がった皮膚が現れた。

「やった! まほうがつかえた!」

 ふっふっふ、大魔道士への道は険しいかもしれないけど、大神官への道は案外近いのかもしれない。
 何せ4歳でキュアを使いこなす天才治癒士がたった今、誕生したのだから。

 とまぁ少し調子に乗ってはみたものの、本気でこんな事を考えている訳じゃない。
 何せ僕の治癒魔力は1だからなぁ、もしかしたらカサブタの下の傷はもう殆ど治っていて、カサブタが取れたのは偶然かもしれないからね。
 だから僕は本当に魔法が発動したのか、確認する事にした。

「うう、いたいのはこあいけど、しかたないよね」

 近くにある薪の中で、ささくれ立っている物を探してそこから適当な長さの尖った木片を手に入れた。
 そしてその木片の先端を人差し指にあてる。

「いたっ!」

 人差し指からぷくっと丸い血が。
 それを見て涙が出て来そうになったけど、そこはぐっと我慢してその怪我に向かって魔法をかけた。

「きゅあ」

 すると先程と同じ様に光が指先に集まり、丸い血ごと小さな傷を消し去った。
 やった! ちゃんと怪我が治った! 僕は正真正銘魔法使いになれたんだ。
 そう思うとうれしくて堪らなくなって僕は走り出した。

 ただそこはまだ4歳、いきなり走り出したりしたら足も縺れると言うものである。
 結果派手に転倒、ちゃんと手はついたから顔を怪我する事は無かったけど、右の手の平をすりむいてしまった。

 じわりと染み出す血と傷の痛みに目から涙がこぼれる。
 でも大丈夫だ、僕は治癒魔道士になったのだから。

 声をあげて泣き出しそうになるのを必死に我慢して、傷口に向かって。

「きゅあ」

 すると先程のように傷口に魔法の光が集まる。
 ところが今回は先程よりも怪我が酷いからなのか、血は止まったものの痛みは取れない。

「なおんないよぉ、いたいよぉ」

 治癒魔法をかけたにもかかわらず怪我が治らなかったのを見て、さっき我慢した涙が目からぼろぼろと流れ出す。
 でも声をあげて泣くのはまだだ。
 僕はもう一度魔法をかける。

「きゅあ」

 すると魔法の光がもう一度傷に集まり、ほんの少しだけ痛みが引いた。
 だから僕はもう一度。

「きゅあ」

 今度も少しだけ痛みが引いた。
 そう、効かない治癒魔法でも何度もかければ徐々に傷は治って行くはずなんだ。
 ゲームの中でも受けた大ダメージは一度の治癒魔法では無理でも何度もかければHPは全快したのだから、同じ魔法を使っている以上、何度もかければいつかは全快するはずなんだ。

 そう考えてもう一度キュアをかけたんだけど。

「あれ? はつどうしない。きゅあ! きゅあ! きゅうあ!」

 いくら呪文を唱えても魔法が発動する事は無かった。
 それどころか魔力が循環している気配も無い。
 そこで僕はある事に気付き、ステータスを開く。
 すると。

「えむぴぃが0だ」

 魔法を使えばMPが減るのは当然。
 そして確かキュアに必要なMPは確か4ポイントだったはず。
 最大が20の僕が5回使えばMPが0になるのは当たり前だ。
 ならどうしたらいいか、MPを回復させればいい。

「げーむとおなじなら」

 僕は地面に座り込み目を閉じる。
 ドラゴン&マジックオンラインではMPは何もしなくとも時間と共に回復する。
 ただMP回復速度アップのスキルやその効果がついた装備をつけていないとその回復速度はかなり緩やかだった。

 でも、そのMP回復の速度を速める方法がないわけではない。
 一番手っ取り早いのはベッドで寝る事、ゲーム内での表現だけどこうすれば画面が一瞬暗くなり、次の瞬間にはMPが全快していた。

 多分この世界でも実際に寝ればMPは回復するのだろう。
 でも今はその手は使えないからもう一つの手を使うべきだろう。
 そのもう一つの手と言うのは、その場で座り、じっとして動かないと言うものだった。

 ドラゴン&マジックオンラインでは、こうするとかなりの速さでMPが回復して行った。
 ここはゲームの中ではないけれど、もしかしたらこれが適応されるかもしれない。
 そこに望みをかけて僕は痛む右の手の平を押さえながら、じっとMPが回復するのを待った。

 4歳の体には痛みに耐えながらじっとしていると言うのはかなりきつかったけど、僕は頑張った。
 どれくらい経ったろう? 1分だろうか? それとも30秒くらいだろうか? とにかく1回分でも回復したかと思ってステータスを見てみるとMPの数値が5に戻っていた。

「やった! きゅあ」

 喜び勇んで魔法の言葉を発する。
 ところが。

「あれ、なんで?」

 魔法が発動しない。

 どうして? ちゃんと発音したよね。
 堪えきれずに溢れてくる涙をぼろぼろと流しながらも、僕は考えた。
 そしてある結論にたどり着く。

「まりょくをじゅんかんさせないと。まほうはじゅもんだけじゃつかえないんだ」

 そう、一刻も早くこの痛みから逃れたかった僕は、そんな当たり前の事すら頭から抜けていたんだ。
 そして今度こそちゃんと魔力を体に循環させてキュアを発動。
 するとさっきまであんなに痛かった手の平が、まったく痛まなくなった。

 慌てて自分の右の手の平を見てみると。

「きずがきえてる。なおったんだ!」

 4回、今の僕の治癒魔力では4回もかけないと転んで出来た擦り傷でさえ治す事ができなかった。
 でも、逆から言えば4回かければ4歳の僕でも怪我を治す事ができるんだ。

「まほうってすごい!」

 僕はこの瞬間、まほうの魅力に取り付かれた。



 この日を境に、僕の日常に魔法の練習と言うものが加わった。
 と言うのも。

「すりきず、なおりきらなかったのは、すてえたちゅとかまほうすきゆがたらないからなんだりょうなぁ」

 転んでできた傷が治らなかった理由を考えた結果、こういう結論に達したからだ。
 ならばどうしたらステータスは成長するのか? これがゲームなら簡単だ、レベルを上げればいい。
 でもこの世界はゲームじゃないし、何より4歳の子供がレベル上げなんかできるはずがないんだよね。

 と言うわけで別のアプローチをする事にした。

 村の人たちを見ると大人たちは戦士や狩人のジョブを持っているんだけど、同じレベルの人でもステータスが大きく違った。
 体が大きかったり筋肉質の人は筋力や体力の数値が高く、やせている人は低かった。
 と言う事は体を鍛えればステータスが変化すると言う事だろう。

 ならば魔力を上げるにはどうしたらいいか?

「まほうをいっぱいつかえばいいんじゃないかな?」

 筋肉は使えば使うほど強くなる。
 なら魔力も使えば使うほど強くなるんじゃないかと考えたんだ。
 生前読んでいた魔法学園物のラノベだって魔力は反復練習で伸びるって書いていたし、きっとそう! 僕はそう信じて毎日少しずつではあるけど、こつこつと魔法を使い続けるのだった。


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